〈フジ・第三者委員会〉中居氏との女性トラブル「業務の延長線上で発生した」と認定…“フジの天皇”日枝氏が「人事権を掌握していると感じる」回答は82%に

元タレントの中居正広氏と女性とのトラブルを巡る一連の問題で、局員の関与が指摘されたフジテレビが設置した第三者委員会は3月31日、「業務の延長線上で発生した」ことを認めた。これにより港浩一元社長など重役が「プライベートで起こった」問題であると認識していた主張を覆した。社員の直接的な関与は認められなかったものの、間接的な影響を与えたとしている。

食事会メンバーも店探しもしていなかった中居氏フジ・メディア・ホールディングスが公表した第三者委員会の290ページにも及ぶ調査報告書によると、一連の問題が生じたのは2023年6月2日。

中居氏が「今晩、ご飯どうですか?」などと女性に連絡し、女性は食事に行くこと自体については特に違和感を持たず、同意。中居氏は「はい。メンバーの声かけてます。また、連絡します」などとメッセージを送ったという。

何度かやり取りする中で中居氏は、「隠れ家的な、お店。自信はありませんが、探してみますね」「雨のせいか、メンバーが歯切れわるくいないです。」などと伝えている。

第三者委員会は、中居氏が大物タレントであり、フジテレビにとって有力な取引先であることから、女性との間に圧倒的な権力格差が存在していたことを認めている。さらに中居氏からの連絡が食事会に他のメンバーが同席すると思わせるような内容になっており、女性が業務の延長線上であるとの認識をもつことは自然であると結論づけた。

なお、中居氏は実際には女性以外は他に誰も食事に誘っていなかったし、飲食店も探していなかったという。

結果的に中居氏が所有するマンションでの食事を提案され、そこで女性は性暴力を受けたという。この性暴力とは「同意のない性的な行為」「性を使った暴力」全般を意味している。

港元社長らフジテレビの役員は当初、これが業務時間外に中居氏のマンションで起こったことであり、プライベートでの問題であると認識していた。第三者委員会はその点について問題だと指摘している。プライベートな問題であると即断したため、被害者女性は「会社は守ってくれない」「会社から切り離された」と孤立感を強めたという。

今回の調査によって、フジテレビの経営陣や関係者の人権意識の低さが浮き彫りとなった。適切な経営判断を行なう知識や意識、能力が不足しているのは明らかだといえる。

また、第三者委員会は日枝久氏が取締役相談役として、トップ人事を決めていたことを認めている。長きにわたって経営の中枢に鎮座し、旧態依然とした役員体制を醸成したことへの責任も否めないだろう。

日枝氏は6月の株主総会で取締役を退任することが決まっているが、第三者委員会による会見では、日枝氏が重要な人事権を持っており、一連の問題に対して説明責任があるだろうとコメントした。

スポーツ番組にも出演させていた杜撰さまた、今回ひとつの焦点となっていたフジテレビ社員の直接的な関与は認められていないが、食事会の2日前に同じ場所で開催されたバーベキュー会があり、その際に当該社員から女性は「仕事でプラスになる」と言われたという。

このことが、女性が問題の食事会をこのバーベキュー会と似たものだと認識したことに、間接的に影響していると結論づけられている。当該社員はふだんから中居氏に頭が上がらない様子が報告書に記録されているが、大物タレントに物申せない関係性はテレビ局の関係者らしい図式ともいえる。

テレビ局のこうした体質は他の場面にも見て取れる。中居氏の継続起用だ。

2023年12月21日に、2024年4月改編に向けた広告会社への説明会を開催しているが、その2週間ほど前に港元社長らが「まつもtoなかい」を終了させるかどうかの協議を行なった。しかし、松本人志氏と中居氏という大物タレントを2人揃えた目玉番組であり、突然の終了は女性を刺激するとの考えから番組継続を決定した。

2023年12月27日発行の『週刊文春』では松本人志氏の性暴力疑惑が報じられている。これによって松本氏は「まつもtoなかい」出演の休止を決定した。しかし、編成局内では番組タイトルが「だれかtoなかい」となることに決定し、放送が継続されることで進められている。

番組の在り方を再考するタイミングだったはずだが、終了の是非は港元社長らの間で協議すら行なわれていない。広告会社向けの説明会を終えており、番組継続ありきで話が進んだということだろう。最終的にこの番組の終了が決定したのは、2025年3月の改編だった。

また、問題発生後の2024年10月31日のMLBワールドシリーズの中継サポーターとして、フジのスポーツ局が独自に中居氏を起用していた。編成制作局が起用を知ったのは放送の数日前で起用を止めることはできなかったという。

同時期になっても港元社長らは中居氏の起用を止めるよう公言したり、すでに広告枠の販売を終えている番組について、中止や放送の取り止めなどの積極的な行動をとっていない。コンプライアンス推進室や取締役会に情報を共有せず、対応方針を練ることも行なわれていなかった。

トップ以外の人事も日枝氏の顔色を見ていた…また、“フジの天皇”と呼ばれた日枝氏に対する、踏み込んだアンケート調査も行なわれている。

「日枝久氏がフジテレビグループの人事権を掌握しているという見方がありますが、そのように感じますか」という質問に対して、感じるとの回答は82%に上ったという。「役員が日枝氏のほうばかり見て行動している」「実力や素養に関係なく日枝氏に気に入られた人物が出世する」との回答があった。局長以上の人事はすべて日枝氏が決めているという話も複数回答出ている。

トップ人事は日枝氏が決めていたが、下層の人事は会長と社長が決めていたものの、日枝氏に“お伺い”をしている状況も見受けられたという。これは会社内において責任感や当事者意識を削ぐことになり、悪しき慣習であると述べられている。

日枝氏の退任を含む経営体制の刷新を発表したフジ・メディア・ホールディングスだが、最大の山場は6月の株主総会だ。

かつてフジテレビを巡る激しい買収合戦を繰り広げた堀江貴文氏は、株式を取得したことを公言。3月27日に社会学者の古市憲寿氏が「めざまし8」のコメンテーターを降板することを受け、堀江氏はSNSで「古市くん、フジメディアホールディングス取締役に推薦したいです」などと投稿している。

さらに、米国のアクティビスト投資家、ダルトン・インベストメンツは日枝氏の退任を要求していたため、今回の退任は株主に歓迎される可能性は高い。

しかし、取締役選任議案がすべて可決されるかは不透明だ。第三者調査委員会の調査結果を公表したことは信頼回復に向けた第一歩となる。

ここからフジテレビはさらなる正念場を迎える。

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